台風のあと、川口市で増えるのが「折れた枝の切り直し」です
9月に入ると、私たちのところに届くご相談の中身がガラッと変わります。台風や強風で折れた枝を、どうしたらいいか。これ、本当に多いんです。
折れた枝というのは、たいてい途中で裂けています。ささくれ立って、繊維がめくれ上がって、雨水が溜まる形になっている。そのまま放っておくと、その傷口から木が弱っていくことがあります。だから切り直す。ここまではみなさん想像がつくと思います。
問題は、その先。「どこで切るか」より「切ったあとの切り口がどうなるか」のほうが、木の寿命を決めているという話です。
川口市で庭木を見せていただいていると、枯れかけた木の幹に、必ずと言っていいほど古い切り口の痕跡があります。数年前に切ったところが黒く変色して、押すとブヨブヨする。そこを起点に、幹の内部が空洞になっている。切ったこと自体は悪くないんです。切り方が、木の防御のしくみに合っていなかった。

木は傷を「治す」のではなく「閉じ込める」
まず前提から。ここを勘違いしていると、この先の話が全部ズレます。
人間の皮膚は、切り傷ができると細胞が入れ替わって元に戻ります。でも木は、傷ついた組織を元に戻すことができません。代わりに何をするかというと、傷んだ部分の周りに壁を作って、被害がそれ以上広がらないように「区画化」する。そして外側から新しい組織を巻いて、傷口に蓋をしていきます。
この巻いてくる組織を、癒合組織(ゆごうそしき)と呼びます。太い枝を切った切り口の縁が、年々ドーナツ状に盛り上がってくるのを見たことがあるかもしれません。あれです。
つまり木にとって切り口は、「治る場所」ではなく「閉じるまで無防備な場所」。閉じるのが早ければ被害は小さく、いつまでも閉じなければ、そこは腐朽菌と虫の玄関口になり続けます。
枝の付け根の「膨らみ」が防御の要
枝の付け根をよく見てください。幹と枝がつながるところが、少しだけ膨らんでシワが寄っているはずです。これを枝の襟(ブランチカラー)と呼びます。
この膨らみの中に、木が壁を作るための組織が詰まっています。ここを残して切れば、木は自分の力で切り口を区画化し、外から癒合組織を巻いてきます。逆に、この膨らみごと削り取ってしまうと、防御の壁を作る場所そのものがなくなります。
自分でやって失敗するケースで一番多いのが、これ。「幹にツライチにしたほうが見た目がきれい」と思って、ノコギリを幹に密着させて切ってしまうんです。気持ちはすごくわかります。でも木からすると、蓋をするための土台を持っていかれた状態。切り口が何年経っても塞がらず、じわじわ幹の内部に腐りが入っていきます。
逆のパターンもあります。枝を長く残しすぎる切り方。残った枝は生きた芽がないので枯れ込んでいき、その枯れた棒が幹の内部まで腐りの通り道になります。長すぎても短すぎてもダメ、というのが厄介なところ。
正解は、膨らみの外側ギリギリ。膨らみを傷つけず、かつ余分な枝は残さない位置です。慣れないうちは「少し残しすぎかな」くらいで止めるほうが、削りすぎるより安全だと思います。
直径5cmを超える枝は、3回に分けて切る
もうひとつ、切り口を悪くする典型が裂け下がりです。太い枝を一発で切りにいくと、切り終わる直前に枝の自重で折れて、樹皮が幹側までベリッと剥がれる。あれをやると、狙った位置どころか幹の一部まで傷になります。
私たちが太枝を落とすときの手順は、こうです。
- まず付け根から30cmほど離れた場所で、枝の下側から3分の1ほど切り込みを入れる
- そこより少し外側から、上側を切り落とす(ここで枝の重さを取る)
- 残った30cmの切り株を、枝の襟の外側で仕上げ切りする
手間に見えますが、慣れれば1本あたり数分の差。3mほどのモミジで数本落として、だいたい2時間前後の作業です。この「重さを先に落とす」ひと手間があるかないかで、5年後の幹の状態がまるで違ってきます。

切り口から入る2つの敵|腐朽菌とテッポウムシ
切り口が閉じないまま放置されると、そこには順番に招かれざる客がやってきます。
腐朽菌|木の中身を食べる菌
腐朽菌(ふきゅうきん)は、木材の成分を分解して栄養にするキノコの仲間です。空気中に胞子が飛んでいて、条件が揃った切り口に着地すると、そこから内部へ菌糸を伸ばしていきます。
条件というのは、ざっくり「濡れている」「乾かない」「日が当たらない」の3つ。切り口が水平で雨水が溜まる形になっていたり、切り口の周りが茂っていて風が通らなかったりすると、まさに菌にとっての好条件です。
川口市のように住宅が密集している地域だと、隣家との境に植えた木の北側が一日中日陰、というお庭が珍しくありません。そういう場所の切り口は、明らかに傷みが早い。私たちが剪定するときに、切り口の向きや残す枝の量まで見ているのは、乾く環境を作るためでもあります。
やっかいなのは、腐朽が外から見えないこと。表面はまだ樹皮が残っているのに、中は空洞。台風で幹の途中からポッキリいく木は、たいていこのパターンです。倒れてから気づくんですよね。
テッポウムシ|幹に穴を開ける虫
テッポウムシは、カミキリムシの幼虫の呼び名です。成虫が樹皮の傷や隙間に卵を産みつけ、孵化した幼虫が幹の内部を食べ進みます。名前の由来は、鉄砲で撃ったような穴が開くから。
サインは足元です。幹の根元に、木くずとフンが混ざったオガクズ状のものが積もっていたら、まず中にいます。イチジク、カエデ・モミジ、バラ、ミカン類、サクラあたりでよく見かけます。
お客様から聞かれるのが「なんでうちの木だけ」。理由のひとつが、産卵しやすい傷があるかどうかです。ツルツルの健全な樹皮より、ささくれた切り口や裂けた折れ口のほうが、卵を産みつける隙間がある。つまり切り口の処理が雑だと、腐朽菌だけでなく虫まで呼び込むことになります。
成虫の産卵期は初夏から夏がピークですが、地域や種類によっては9月に入っても活動しています。台風で折れた枝をそのまま秋まで放置するのは、あまりおすすめできません。
癒合剤を塗るべき木・塗らなくていい木
ここが一番ご質問の多いところ。ホームセンターで売っている、あの黒や白のペースト状の薬です。
まず誤解を解いておくと、癒合剤は「腐りを治す薬」ではありません。すでに入ってしまった腐朽菌を殺すものでもない。役割は、切り口の乾燥を防ぐこと、そして菌の胞子と虫の産卵から物理的に蓋をすること。あくまで、木が自力で癒合組織を巻くまでの時間稼ぎです。
だから、木が自力で早く閉じられるなら要らない。閉じるのに時間がかかる木、腐りやすい木には塗る。判断の軸はここだけです。
| タイプ | 代表的な木 | 癒合剤の要否 | 理由 |
|---|---|---|---|
| 腐りやすく癒合が遅い | サクラ、ウメ、モモ、ハナミズキ | 塗る(推奨) | 「桜切る馬鹿」と言われるほど切り口から腐りやすい。太枝を切ったら必ず |
| 樹液・水分が多い落葉樹 | カエデ・モミジ、ケヤキ、イチジク | 直径3cm以上は塗る | 切り口が乾きにくく、テッポウムシの被害も多い樹種 |
| 果樹 | カキ、ミカン類、ブルーベリー | 太枝のみ塗る | 細い枝の切り戻しは不要。太枝は腐朽が実つきに影響する |
| 樹脂で自ら塞ぐ針葉樹 | マツ、スギ、ヒノキ、コニファー類 | 基本不要 | ヤニ(樹脂)が自然に蓋をする。塗ると逆に蒸れることも |
| 常緑広葉樹の細枝 | カシ類、キンモクセイ、ツバキ、サザンカ | 不要 | 細枝の剪定は切り口が小さく、自力で早く閉じる |
| 生垣・刈り込み | ドウダンツツジ、イヌツゲ、レッドロビン | 不要 | 刈り込みバサミの傷は浅く、塗る意味がほとんどない |
ざっくりした目安として、私たちは切り口の直径がおおよそ3cmを超えたら塗る、500円玉より小さければ塗らないという線引きで作業しています。全部に塗るのは時間もコストも無駄ですし、細い切り口は塗らないほうが早く乾いて健全です。
塗り方のコツもひとつだけ。切り口の中央をベッタリ塗るより、縁を確実に覆うほうが大事です。癒合組織が伸びてくるのは縁からなので、そこが乾いたり傷んだりすると巻きが止まります。あと、雨の直前は避けたほうが無難。乾く前に流れます。

折れた枝を自分で切り直すときの注意
脚立に乗らずに手が届く高さで、直径3cm程度までの枝なら、ご自分でも十分できると思います。剪定バサミではなく剪定ノコギリを使ってください。ハサミで無理に太枝を挟むと、切り口が潰れて繊維がつぶれます。潰れた組織は癒合が遅れます。
一方で、ご自分でやらないほうがいいのはこのあたり。
- 脚立が必要な高さ、または枝が屋根や電線にかかっている
- 直径10cmを超える太枝、または幹の途中から折れている
- すでに切り口が黒く変色して、押すと柔らかい
- 根元にオガクズ状の木くずが積もっている
特に下の2つは、切り方の問題ではなくすでに内部が進行している状態なので、切って終わりにはなりません。木を残せるのか、この木は切りどきなのか。そこの判断から入る必要があります。
ちなみに、私たちが作業する場合、切った枝葉は回収して持ち帰ります。ただし台風後の折れ枝はまとまった量になることが多く、量が多い場合は運搬・処分料(3,000円〜/量に応じて)を別途申し受けます。剪定は1本3,000円〜、お見積りは無料ですので、量が読めないときは先に見に行かせてください。業者に頼むときは、どこの会社でも処分費の扱いだけは先に確認しておくと、あとで揉めません。
よくあるご質問
Q. 台風で折れた枝は、いつまでに切り直せばいいですか
裂けている場合は、できれば数週間以内。裂け口は雨水が入りやすく、9月はまだ気温が高いので菌が活動します。ただし、台風のたびに慌てて切るより、次の剪定のタイミングで一緒に処理する方が結果的にきれいに仕上がることもあります。折れ口が幹まで達しているかどうかで判断が変わるので、迷ったら写真を撮っておいてください。
Q. 癒合剤を塗り忘れた切り口は、今から塗っても意味がありますか
切ってから日が浅く、切り口が乾いてきれいな色をしていれば、塗る意味はあります。逆に、すでに黒ずんでいたり、縁が盛り上がって癒合が始まっていたりする場合は、無理に塗らないほうがいいです。巻いてきている癒合組織を薬で覆っても、進行が早まるわけではありませんから。
Q. 9月に剪定してもいいのでしょうか
折れた枝の切り直しや、混み合った枝を透かす程度なら問題ありません。ただし、常緑樹を強く刈り込むのは避けたほうがいい時期です。切ったあとに伸びる新芽が、冬までに固まりきらないことがあるので。本格的な形づくりは、落葉樹なら葉が落ちてから、常緑樹なら春以降のほうが木に優しいと思います。
Q. 幹に穴が開いていて、木くずが出ています。どうすれば
テッポウムシの可能性が高いです。市販の専用殺虫剤を穴に注入する方法がありますが、穴が複数あったり、幹の広範囲に及んでいたりする場合は、内部がかなり進行していると考えたほうがいいかもしれません。この段階だと、駆除しても幹の強度が戻らないので、倒木リスクの判断が必要になります。川口市内でしたら見に行けますので、まずは状態を確認させてください。
Q. 切り口が塞がるまで、どれくらいかかりますか
木の勢いと切り口の大きさ次第です。健全なケヤキやカエデで、直径3cmくらいの切り口なら2〜3年で縁が巻いてくることが多い印象。10cmを超えると、樹種によっては10年近くかかりますし、そもそも塞ぎきらないこともあります。だからこそ、そもそも太い枝を切らずに済むよう、若いうちから定期的に手を入れておくのが一番の予防策なんです。
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